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メールマガジン「がんばりすぎないセキュリティ」No410 (25/06/16)

電子マネーのふしぎ(410号)


皆さんは、電子マネーをお使いでしょうか?

筆者は、今も現金払いの方が好き、だったはずですが、最近は現金を持ち歩かなくてもよい手軽さもあり、電子マネーを利用することが随分と増えています。

この便利な電子マネーですが、仕組みがややわかりにくい点があり、「うさん臭さ」や「居心地の悪さ」を感じる方もおられるかと思います。

今回は、そんな電子マネーについてお話します。


1. 一口に電子マネーと言っても

一口に電子マネーと言っても、いろんなバリエーションがあります。 まず、クレジットカードによく似たICカードを利用するタイプの電子マネーがあります。 まず、交通系と呼ばれる交通機関が発行している電子マネー用のICカードがあります。これは各駅の券売機などで購入できますので、どなたでも手軽に利用できます。 ・SUICA(スイカ。JR東日本) ・ICOCA(イコカ。JR西日本) ・PASMO(パスモ。関東の交通会社) ※関西圏でもPiTaPa(ピタパ)というクレジットカードと電子マネーを兼ねたICカードがありますが、ちょっと特殊です。 また、小売店などの流通業が発行しているカードは流通系などと呼ばれます。これらも交通系ほどではないですが、手軽に入手できます。 ・楽天Edy(エディ。楽天) ・WAON(ワオン、AEON) ・nanaco、(ナナコ。セブンイレブン) いずれもあらかじめICカードに金額をチャージし、利用すると減額されるタイプです。 また、電子マネーとしては古参となるiD(アイディー)やQUICPAY(クイックペイ)などもICカードによる電子マネーです。 一方で、ICカードを利用しない電子マネーというのもあります。 俗にバーコード決済と呼ばれるものがそれで、多くはスマホで専用ソフトをダウンロードし、その画面をお店の人に読み込んでもらうことで、決済が行えるタイプの電子マネーです。 今回は、ICカードを使うタイプの電子マネーについてお話をします。

2. ICカードとは?

ICカードの構造については、2年ほど前に記事を書いています。  No317 ICカードはなんで"IC"なのか?(2023年7月配信)  https://note.com/egao_it/n/n4d15cc070b32 電子マネー用のICカードには、残高だけでなく最近の使用履歴(決済履歴、チャージ履歴など)が入っています。 交通系のICカードの場合は、さらに改札機を通った時の入場記録や出場記録も履歴として残されます。こういった情報があるから、駅員さんは履歴を確認して「乗車駅での入場履歴がないですね」と話ができるわけです。 ちなみに、この使用履歴って通常のカードには20件分しか枠が用意されていないそうで、SUICAで乗車した後に、飲みもの、お弁当、おみやげなどの決済やチャージを20回以上繰り返すと、一番古い入場記録が追い出され、出る時に「入場記録がありません」エラーになってしまうそうです。 なお、ICカードへの残額のチャージ方法はサービスによって異なります。 SUICAやICOCAなどの交通系なら駅の券売機、WAONなら実店舗に備え付けられたチャージ機などでチャージが行えます。楽天Edyでは、スマホの専用アプリでチャージが行えます。

3. 電子マネーの支払いってどうなってるの?

おそらく多くの方がモヤっとしているのは、このカードにチャージしたお金のまわりかたなんだろうと思います。 どうやって回収されているのかがわかりにくいですものね。 クレジットカードの場合は、お店でネット接続した端末にカードを入れると、その額がカード会社に記録され、後日請求されます。 一方、電子マネーの場合、例えば、券売機でSUICAにチャージすると、その分がICカードに記録されます。もちろんカード内には「残額」という数字が増えるだけです。 それがお金として使えると言われても何だか不安だというのはよくわかります。 さて、ここでは、コンビニでその電子マネーを使って支払った場合と、コーヒーやジュースを自動販売機で買った場合の流れをお話します。 例えば、コンビニで電子マネー用のICカードを「ピッ」とします。すると、コンビニの決済機が、残額から購入分を差し引きます。 その金額分をインターネット経由で電子マネー運営会社に請求します。 つまり「○月○日に、ICカード○○番のカードから○○円を支払ってもらったよ」というデータを電子マネー運営会社に送りつけるのです。 電子マネーの運営会社側はその請求に対して、翌月などにまとめて支払いをします。 電子マネーの運営会社から見ると、お金は事前(利用者がチャージした時)に受け取っており、その中から、請求された分を後払いする形になります。 つまり、運営会社は一時的とはいえ、利用者の支払ったお金を預かる形になるわけです。 ちょっと話がズレますが、実はこの預かっているお金が預金なのか?については相当モメたそうです。特に楽天は「じゃあ、オレたちは銀行でもないのに銀行法に従わなければいけないのか?」と、金融当局とさんざん討議を重ねたとか。 その成果が、2010年に施行された資金決済法という枠組み結実しているのです。 さて、話を戻します。 コーヒーやジュースの自販機はさらにスゴい仕組みで運用されています。 コーヒーを買うと、自販機はその金額を電子マネーのICカードから減額します。 ここまでは、コンビニといっしょです。 ですが、大半の自販機はインターネット接続なんてできません。つまり、電子マネーの運営会社に伝えるすべがありません。 そこで、登場するのが、コーヒーやジュースの補充スタッフ(ルートマンと呼ぶそうです)です。 電子マネー対応の自販機の場合、専用端末で売上実績のデータを集めるのですが、その時に電子マネーの売上情報も同時に収集するのですね。 一日の終わりにその専用端末を会社に持ち返って、データを吸い上げると、そこで初めて運営会社に売上情報として、請求が送られます。 つまり、利用者が実際に購入してから、数日遅れでやっと集計できるのがあたりまえという、とても現代とは思えないような牧歌的な運用で回ってるんです。 電子マネーという最先端の技術でありながら、それを支えるのが人に頼り切った運用というのもふしぎな感じですよね。

4. まとめ(今日からできること)

今回は電子マネーのうち、ICカードを使った支払いと回収の仕組みをお話しました。 現在、使われている電子マネーのICカードはSonyが開発したFelica(フェリカ)なのですが、ほぼ日本でしか利用されていません。 こう聞くと「またガラパゴスか。日本は先見の明がない」とお考えかもしれませんが、筆者の考えは違います。 Felicaの最大の特徴は「高速性(0.1秒での支払完了)」であり、最大の問題は「そのためにオフライン決済を許容」した点にあります。 オフライン決済を認めると、偽造のICカードや残額の詐称のリスクがあります。 このリスクを日本の社会は受け入れました。そのおかげで、今のSUICAがあり、交通機関でのスムーズな改札が行えるようになったのです。 ところが、この判断は海外では全く受け入れられませんでした。 本当に残高があるかどうかもわからないのに、購入を認めるのは恐いというのです。 どちらが正しいという話ではないのですが、こういった選択を許容できる日本の社会というのは素晴らしいなと感じます。 筆者はこの話を聞いたときにちょっと誇らしく思いました。 皆さんはどうお考えでしょうか? 次回もお楽しみに。 今回お話ししたこと:  ・電子マネーにはICカードを使う方式やバーコード決済などがある。  ・ICカードでの支払い後の回収モデルは日本ならではのものである。  ・特に自販機でICカードが使えるのは、ほぼ日本だけ。 (本稿は 2025年6月に作成しました)

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