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メールマガジン「がんばりすぎないセキュリティ」No431 (25/10/27)

素朴な疑問シリーズ:「緊急速報は“放送”」ってどういうこと?(431号)


先日、大阪で作業をしていますと、「大阪880万人訓練」というのがあり、筆者のスマホにも大きなアラーム音と共に、メッセージが届きました。

それにしてもすごいですよね。880万人。
つまり、送付先がそれだけあるってこと。
大阪だからまだこの規模なんでしょうが、関東全域なんてことになれば、3000万人とか4000万人てな話ですよね。スゴいですよね。

でも、考えてみると不思議ですよね。
だって、いくらコンピュータが高速だからって、こんな大量のメッセージ発信を数秒で行うなんて、どんなスゴいシステムで実現しているのでしょうか?

今回は、緊急速報の仕組みについてお話します。


1. 緊急速報はLINEと何が違う?

緊急速報が届くと、大音量のアラートが鳴り、メッセージが表示されます。 この様子だけを見ていると、LINEなどのメッセージアプリでメッセージを受信するのと大差ないように感じます。 ですが、緊急速報はLINEのようなメッセージアプリとはいろんな点で違います。 LINEの場合、メッセージを送信すると、それがLINEのサーバに届きます。 次に、そのメッセージの送り先をLINEのサーバが探して、各IDのトーク履歴に追加し、さらに各端末に「メッセージが来ていますよ」という通知をサーバから送ります。 その通知は、インターネットを通して、行われています。 一方、緊急速報では、インターネットは使いません。使うのはドコモやau、ソフトバンクなどが提供している携帯電話網(キャリア回線)です。 また、LINEのメッセージを見るには、LINEアプリをダウンロードした上で、アカウント登録が必要ですが、緊急速報は国際標準で決まっていますので、AndroidでもiOSでも、アプリなしで受信が可能です。 仕組みとしては、LINEなどのメッセージアプリより、ショートメッセージ(SMS)に近いです。

2. じゃあ、緊急速報はSMS?

これがややこしいところなのですが、緊急速報はSMSとも違う仕組みです。 SMSというのは、電話番号を使ったメッセージ送信サービスです。 つまり、送りたい人が電話番号と、メッセージをキャリア(ドコモやau、ソフトバンクなど)に預けると、キャリアは相手の電話の所在を確認した上で、その端末(スマホ)に携帯電話網を通じて、メッセージを送付します。 つまり、インターネットを使わず、携帯電話網を使うという点では、緊急速報とSMSはそっくりです。 ですが、SMSと緊急速報には大きな違いもあります。 それは、緊急速報ではSMSでは必要な電話番号すらいらないという点です。

3. 放送(ブロードキャスト)方式

上で、緊急速報は国際的な規約に定められている、と書きました。 これはETWS(Earthquake and Tsunami Warning System:地震と津波警報システム)と呼ばれます。(現在は、PWSと名前が変わっていますが、ほぼ同じものです) このETWSのベースは、阪神淡路大震災(1995)での教訓を契機として日本が研究を重ねて編み出した緊急速報の方式そのものです。 阪神淡路大震災では被災した人々への情報提供ができず、また電話網などの連絡経路の大混乱が発生しました。 そこで、一つ一つのケイタイやスマホに連絡をするのではなく、一方的な情報提供だけでもできるような仕組みを、と考案されたのが、ETWSなのです。 さて、個別の機器のことを気にせず、大量に情報発信する方法といえば、何を思い浮かべますか? そう、ラジオやテレビがまさにその方式を使っています。つまり「放送(ブロードキャスト)」です。 これをスマホや携帯にも適用できないか?と考案されたのが、ETWSの根幹です。 SMSは、特定の電話番号のみに、メッセージを送ります。これは「通信」です。 ですが、緊急速報は、テレビのように誰でも受信できる形態でメッセージを送ります。同じ電波を使うのですが、これは「放送(ブロードキャスト)」となります。

4. ブロードキャスト方式の利点

なぜ、わざわざブロードキャスト方式を選んだのか? それは、大量のスマホに同じメッセージを届けるなら、ブロードキャストが最適だからです。 冒頭の880万人訓練をSMSで送付したと仮定して計算してみます。 日本の3キャリア(ドコモ、au、ソフトバンク)のSMSの同時送信数は、せいぜい秒間5万件といったところ。 880万件を送信するには、880万÷5万=176秒、かかる計算になります。 これでは、地震も終わってますし、津波も既に来ちゃってるかもです。 これが、全国(1億件)となると、1億/5万=2000秒かかる計算ですから、まさに、お話になりません。 一方、ブロードキャスト方式であれば、端末側のETWS対応が必須になるものの、キャリア側も巨大な投資をせずに、対応できます。 つまり、ブロードキャスト方式というのは、短時間で大量のスマホに通知できる、とても効率的な方式なのです。

5. まとめ

緊急速報の仕組みは、2007年にドコモが「エリアメール」として始まりました。 その翌年には、auやソフトバンクも同調します。 実際に、2011年の東日本大震災では、その有効性が実証され、各自治体での運用も始まります。 一方で、端末側の対応も国際標準となったことで、AndroidもiOSも2013年頃には標準的に搭載されるようになり、2015年頃には、おおむね誰でも受けとれる体制が整いました。 当初は、ETWS(地震と津波の警報システム)でしたが、現在はPWS(Public Warning System:公衆警報システム)と名前を変え、世界各国の行政などで採用されています。 なお、緊急速報は、端末の設定でON/OFFが可能ですが、基本的にはONのままにしておくことが良いのではないでしょうか。 今回は、意外に知られていない緊急速報の仕組みについてお話しました。 次回もお楽しみに。 今日からできること:  ・緊急速報は身を守るためにもONにしておきましょう。  ・式典やコンサートでOFFにした場合は、戻すのを忘れないでください。 (本稿は 2025年11月に作成しました)

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